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2014年12月30日 (火)

「森の王」 序章

2001年10月発行の長編ファンタジー

「森の王」の序章を紹介いたします。

2015年1月より、再版本の取り扱いを開始しますので

ご参考までにどうぞ。

     序章

 半島の統一成ったとはいえ、予言者の王を戴くアシアン王国において、

実際に民を支配したのは諸侯と呼ばれる貴族たちであった。

 南海にアルシス侯、東の平原にゼノア侯、そして北の森にはソロン侯――

かれら大貴族はそれぞれ港を作り城塞を築いて街をひらき、

街道を整えて支配の礎(いしずえ)を地方へとさらに拡げた。

広大な領土に反乱の芽が育つことを厭う貴族たちは、一族郎党を要所へ封じ、

蛮族や妖魅を辺境へと追いやった。王は、いわば後援者であるかれらの為に

よく未来を視(み)、助言を与えた。王国はますます栄えた。

 その年、アシアン暦二七二年。十一代シャリオルフィン王の治世――

 王国の北辺、ファリルと呼ばれる森深い地は、

ドーセア伯家の支配下にあって久しかった。

ドーセア伯家もその他多くの豪族と同じように、

諸侯の一翼である北の雄ソロン侯家の姻戚であったが、

表向きの主従の関係はともかく、伯家が政事に及ぼす影響力には

極めて強いものがあった。

 単純至極な理由がある。北方の山々は豊かな鉱山資源に恵まれていた。

王家がその扱い方を民に教えてからは、特に鉄は重要であった。

重い鎧と鋭い剣硬い盾を装備したドーセア伯の兵には、

諸侯といえども一目置くほかなかったのである。

 そうして権力と富の双方を得たドーセア伯が次に画策したのは、

諸侯と王家を中心とした連合王国からの独立だった。

 尽きぬ資源と不敗の軍隊。天災にも侵略にも動じない

巌(いわお)のごとき支配体制が確立されているなら、

朝貢と引き換えの予言などに頼る必要はなかった。

時の王シャリオルフィンが奴隷制度に反対であることに、

鉱山での労働力のほとんどをそれに頼るドーセア伯としては承服しかねたせいもある。

 その、ドーセア伯が猛き叛逆の意志を秘め、山中に築き上げた堅固な城塞――

「ふん。他愛もない」

 肩までの真紅の髪を熱風に躍らせながら、少女は呟いた。

「虫ケラめ」

 彼女の裸足の足許には、その影にふれることも叶わぬまま

息絶えた兵士の屍が累々と折り重なり、倒れていた。

王国最強を謳われた彼らの見開いたままの瞳には、無念と恐怖とが満ちている。

 少女は幼い頰に一筋散った返り血を、疎ましげに指で払った。

猫科の高貴なけものを思わせる碧の瞳を怒りに燃え立たせ、少女は石の床を蹴った。

分厚い扉があっけなく弾け飛び、少女は宙を舞って室内に降り立った。
 

 豪奢な敷物が、壁飾りが、黄金をあしらった燭台が、杯が、

少女の一瞥を受けただけでたちまちのうちに燃え上がる――

城のあらゆる他の場所と同じように。

 部屋にひととおり炎を放った後、少女の歪んだ微笑は

巨大な寝台の傍らで震え上がっている中年の男に向けられた。

寝衣で丸腰の彼は、応えぬ側近の名を連呼しながら、渾身の力をふるい、

少女に花瓶を投げつけた。巨大な青銅製のそれは

少女の可憐な頭蓋を砕こうと唸りを上げた次の瞬間、灼熱の液体と化して滴り落ちた。

「魔女め!」

 細身の身体に魚類を思わせる銀色のぴったりした下着をつけただけの少女は

ゆったりと腕を組んだ。

「おのれ魔女、この儂を当主ゼロス・ウーラント・ドーセアと知っての狼藉かっ」

「知ってるわ」

 魔女は無邪気にほほえんだ。

「その力は王を凌ぐとさえ聞いた。なるほど王は予言をし、導師と呼ばれているけど、

所詮あれは耳であり声であるにすぎない。私の求めるものとは違うみたいね」

「ち、力だと」

 ドーセア伯は恐怖のあまり舌をもつれさせた。

「おまえの攻撃に一刻も保(も)たぬ軍勢の、何が力ぞ」

「違うわ。〝かけら〟のことよ」

 魔女の白い掌で、砂金のきらめきが輝きを放つ。

「創造主の力にして心。千にわかれたのか万に散ったのか、私にも解らない。

しかし世が乱れれば、秩序を回復すべく何かが現れる筈。

救世の顕現、それはオマエのことなの?」

「………」

 ドーセア伯の軽度に肥満した身体は、

今や熱病にかかったように激しく震え始めていた。

彼は人並み以上に豪胆であったし、野心家で計算高かったが、

幼くも強大な魔女にそんなものは微塵も通用しそうになかった。

側近に新王と呼ばせ、悦に入っていた頃のことが、果てしなく遠い昔のようだった。

 炎燃え拡がる室内で恐慌の頂点に達した伯は、

活路を求めて部屋の出口に立つ少女に襲いかかった。

手負いの獣を思わせる突進を、しかし少女は微風とたわむれる軽やかさで受け流した。

「試してみようかしら」

 悪戯っぽい笑みとともにドーセア伯の身体が松明(たいまつ)のように燃え上がる。

と、次の瞬間炎は尽きて、灰ばかりがばさりと床に散り落ちた。

 魔女はつま先立ちで、元はドーセア伯であったものを見下ろした。

「なんてこと。チリほどの〝かけら〟も見当たらないとは」

 細い眉を苛立ちに吊り上げて、彼女は床を踏み鳴らす。

「こんな調子で、いつになればあれを取り戻せるというの?」

 魔女は突然振り向きざまに指を鳴らした。

部屋の中心にある天蓋付きの寝台が弾け飛び、

床との隙間にうずくまっていた娘が悲鳴を上げた。

うすものをまとっただけの亜麻色の髪の娘はたいそう美しく、

ドーセア伯の愛妾であることは明白であった。

「ふん。権力を握った男のすることはどこでも同じとみえるわね」

 魔女はうんざりしたように吐き棄てたが、

すぐにその瞳は残虐な光に生き生きと輝き始めた。

恐怖のあまり声も出せない娘に、魔女はやさしく語りかける。

「おまえは生かしておいてやるわ。殺しても〝かけら〟なんかなさそうだしね

……おまえは生きて虫ケラの同類に伝えなさい」

 魔女はクスクスと笑いを嚙みころす。

「私は  〝かけら〟をさがしてる。変わらぬもの、滅びぬもの、そして、力。

それに宿る魂のことよ。皆殺しにしてでも手に入れようと思っていたけど、

正直いってきりがない。……猶予をあげるわ。虫ケラの知恵を絞ってかき集め、

私に差し出すのよ。城の裏の山に入口を作っておいてあげる……

けど、急ぐことはないわよ、私は案外気が長いから」

 魔女は額にかかる真紅の髪を無造作に払った。

「フフッ、せいぜい私を退屈させないことね。私の存在を恐れ、

怯えて暮らせるよう、おまえが語り伝えるのよ。名を教えてあげるわ、私は――」

 拡がった髪がたちまち炎に変じ、少女を呑み込んで消えた。

しかし他のすべては――炎も死も破壊も、現実として娘の前に残った。

娘はすすり泣きながら膝で這って、つい先刻まで彼女の主人であったものにふれた。

「旦那様……」

 渦巻く熱風が娘の呟きをかき消し、応えるもののない地獄のただ中で娘は独りだった。

    序章・了

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