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2012年4月17日 (火)

スタルニクスの星 第一話「立候補者」 1

2009年10月、サークルProject想音発行の「スタルニクスの星1」より

冒頭部分です。

女性向け架空国家ファンタジーでよろしいんでしょうか…。

ファンタジーといっても魔法とか皆無なんですが。

よろしければ続きをご覧下さい☆

 

〝此の国の名を、スタルニクス共和国と定める。
  自由・平等・友愛を掲げた最初の国として
  我らの闘争と成果を歴史に刻みつけようぞ〟

 暴虐なる領主、アシアン王国のゼノア侯を倒して
半島の北東部に国を興したオルガ・ジールは、
自らは王とは成らず、国相と名乗った。 

 政事を司るが国と民の下僕であると説明した彼は、
生涯をかけて有名な共和国憲章をはじめ、実に多くの法律を作り、
そのひとつひとつの理念を詳細に書き遺し、
自らの理想とする国家の骨組みを作り上げて亡くなった。
次の国相の座へ就く者に彼は自分の息子や側近の名を挙げるかわりに
奇妙な制度を定めていた。
 〝選挙制〟
 国民の代表は、国民が投票して、決める。
 至極当然のようでいて、誰も知らないその制度は粛々として実行に移され、
二代目の国相(ジール)には当時の将軍の一人が選ばれた。
そして彼もまた闘争に明け暮れる日々を送った。
スタルニクスは全域にわたって土地が貧しく、肥沃な隣国アシアンに侵攻するほか、
国を発展させるすべを持たなかったからである。
 二代国相は成人男子すべてに兵役を課し、軍隊を整備し、
やがてスタルニクスの名は世界最強にして暴虐の軍事国家として
広く知られることになる。
 ――以来、三世紀近く。
 スタルニクス共和国の国相は未だに選挙で選ばれ、
そして血塗られた戦線を南へと拡げ続けている。
 初代国相の志した公正で美しい制度も、
時間のもたらす変容からのがれることは出来ず、
ただ四年に一度、軍人か官僚の有力者を国相に据える為の面倒な決まり事として、
国家の仕組みに組み込まれているに過ぎなかった。
 ――過ぎないように、見えた。

 スタルニクス暦二九八年。国境の町ジブル。
 川辺になかば張り出した小さな城塞都市は、付近の他の土地と同じように、
気短な子供同士の奪い合いに似た紛争の日々を経て、
現在はスタルニクス共和国の占領下にあった。
ごく最近の、そして久々の勝利の結果である。
 敗北したアシアン王国軍は撤退していったが、
長らくアシアン王国の支配に慣れたジブルの住民は、
新たな支配者たちを歓迎しなかった。
スタルニクス軍がもっとも美徳としている、
略奪や理由なき暴力を禁ずる軍規に不信感を抱く者も多く、
スタルニクス軍はこの最前線の占領地で、
住民の監視に人手を割くことを余儀なくされた。
 当然ながら増援を乞う使者が出されたが、
軍団長のいる町までゆくのにかかる日数、協議にかかる日数、
編成そして行軍にかかる日数を数え上げると、
占領部隊には本国は地の果ての遠くに思われた。
 が、無論、すべてのスタルニクス兵が無為に過ごしていた訳ではない。
 夕方遅く、その若者は既に暗い東側の窓際に立ち、腕を組んで、
やや下方に視線を向けていた。
 年の頃は二十代半ば、長身といえなくもないが、
少年のようにしなやかな体躯は、スタルニクス人としては華奢な部類に入るだろう。
枯れ草のようなもつれた淡い髪はうなじにかかる長さ、
柔和なおもざしと、ごく薄い緑の眼は力強さや個性には欠けるが、
美しいと評するのに何の躊躇も必要ない容貌である。
鎧ではなくこざっぱりとした麻の衣類を着けた姿は涼しげで、
部屋の重厚で豪奢な調度に程良く釣り合っている。
だが、彼が無為に佇んでいる訳ではないことは、
その視線の先にあるものを見れば明らかだった。
「もういい加減、吐いてしまったらどうです?」
 抑えた声で呼びかけた相手は、布張りの長椅子に座らされていた。
その恰幅の良い初老の男も、部屋の様子に相応しく
襞をたっぷりと取った豪奢な装いだったが、両手を縛める縄と両足をつなぐ鎖、
それに何より昂然と若者を見返すまなざしが、男の虜囚の身分をあらわしていた。
 むっつりと口を曲げている男に、若者は肩をすくめ、更に呼びかけた。
「時間さえ稼げれば、味方が来てくれると思ってるんでしょう?
その信じる根拠、もうこちらにも伝わってきてるんですよ、ジブルの長殿」
「……そのような話は、知らぬ」
 国境の町であらゆる出来事を経験してきた男の口は固かった。
「ただの噂であろう?噂を真に受けて、辻々の警護に長老たちへの尋問、
スタルニクスのお方はよほどお暇とみえる。
こんな年寄りに見目うるわしい若者をあてがって、いったい何を企むのやら」
「………」
 町長の挑発に、若者は乗らなかった。
組んでいた腕を解くと虜囚に歩み寄り、くたびれた襟元を掴み上げた。
「今この町に目をつけているのは、力自慢で頭の単純な国境部隊だけではないぞ?」
 若者は町長の目の前に唇を寄せ、声は出さずにわずかに口を動かした。
「カ……カダ!」
 ひいっというような声が初老の男の喉から放たれた。
若者はその反応に満足そうに笑い、男はおののきながら、しわがれた声を絞り出す。
「……なんということだ。我らは遂にスタルニクスの屍肉喰らいに
見入られてしまったのか……」
「その通り。二度とこの町がアシアンになびかぬよう、楔を打ち込むのが我らの役目。
スタルニクスは永久にジブルを手に入れると決めた。
カダが……スタルニクス諜報局がそれを請け負った以上、
それは必ず実行される。――町長」
 若者はあやしくほほえみ、形の良い指先で、かるく相手の胸を突いた。
襞の奥の奥の何かを破られたように、町長は怯んだ。
「知っていることを全部我々に話すべきです。ここが戦場となり滅びる前に。
アシアンに義理立てして死ぬ理由はない、スタルニクスに従い、
生きてこの町を繁栄させるのが賢明な道ではありませんか」
「………」
 町長はうつむいて応えない。若者は首をひと振りして立ち上がった。
「次こそ良いお返事をいただきたいですね。失礼」
 捕虜の尋問を切り上げ、若者は同じ建物の高層の部屋へ向かった。
現在はとらわれの町長の執務室であった格段に豪奢な一室は、
今は占領軍の司令室となっていた。
「明日には吐かせてみせるだと!?何を悠長な!」
 占領軍の隊長は四十代後半、鉄色の髪と砂色の眼と岩のような体躯に
気短な気性をそなえた、典型的なスタルニクス職業軍人だった。
「残虐非道で鳴らすカダが、あんな老いぼれの口も割れんとは、堕ちたものだな。
我が配下に任せればいいのだ、アシアン側につながっているという地下通路の在処など、
すぐに吐かせてみせる。骨の二、三本は覚悟してもらう必要があるがな」
 隊長が腰の得物をわざとがちゃつかせるのを、若者は嫌悪の表情で見遣った。
「今回は恐怖と暴力をなるべく用いずに落とせ、というのが我が局長の命令です。
ジブルは今後重要な拠点となる、恒久的に円滑に従える方法を探れ、
恐怖支配は反乱分子を生み、長続きせぬ、と」
「大変立派なご意見だが、諜報、暗殺をなりわいとする国相直属機関の
発想とは思えぬな」
 至極立派な町長の机に肘をついて、隊長はせせら笑った。
人払いをしていなければ、彼の副官たちも追従の笑いを浮かべたに違いない。
「こんな若いのを一人で寄越して、どれほどの切れ者かと思ったが、
見た目通りの優男とはな。泣く子も黙るカダが、聞いて呆れる。
この町に秘密の通路があると言われて、流石カダだ、あらゆる情報に通じている、
と驚くような輩は阿呆だな」
 隊長はぞんざいに言い放った。
「制圧した町の者が本気で屈しているかどうかなど、目を見ればすぐに解る。
ジブルの連中は諦めていない。奴らは何を信じる?あいつらの魔法使いの王様か?
魔法やら予言なんぞ、何かのいかさまに違いないが、
魔法に見せかけた派手な仕掛けならありえる、と俺は思っている。
地下通路?大いにありえるだろう。おまえらだけの特別な情報、特別な発想ではない。
おまえが来なくても我々は疑い、調べ、吐かせて、対処する。
カダの横槍を我々は歓迎しない。未だ結果も出せていないのだ、当然だろう」
「……口を慎んでいただきましょう」
 若者が抑えた口調で言った。淡い色の眼に怒りがゆらぐのを見て、
隊長はなんとなくぞっとしたように口をつぐんだ。
「本当に私一人だと?もっと優秀な我が同僚が身元をいつわって
この町に紛れ込んでいないという保証がどこにあるのです?」
「………」
 その可能性に初めて思い至ったらしく、隊長は自分の首筋に手をやって、
いまいましそうに舌打ちした。
「だが早々に決着をつけろ、カダの犬め」
 隊長は顔を歪めて、小さな醜い獣を追い払うような仕種をした。
「おまえの貧相な恫喝なんぞ、幾日も覚えていられる訳がないからな。
それまでの猶予と思え」
「……肝に銘じておきましょう」
 若者は目を伏せて薄く笑った。
「しかしそれを上に報告する時、貴官の無礼な発言の数々も
詳細に申し上げることになりますよ。御覚悟を」
「構わぬよ。さあ、行ってしまえ、私は忙しい」
 邪魔な仔犬のように追い出された若者は、速い足取りで自室に戻った。
天井裏に近い、この館の使用人部屋のひとつだが、
任務の為に二人部屋を丸ごと与えられている。
狭い寝台の片方を占領しているのは大きめの木箱で、
持込検査済の印が捺されているが、無論正規のものではない。
若者は蓋を開いて、武器や薬物の瓶を吟味していたが、ふとため息をついた。
「仕方ない。アレでいってみるか」
 するりと服を脱ぎ捨てた身体は細いながらもよく引き締まり、
日焼けしていない首から肩の線は水鳥のように優美だった。
箱の底から抜き出した絹をまとうと、何もかもがあらわに存在を主張したまま、
銀色の襞がとろりと膝下まで流れ落ちる。
鏡のない部屋で彼は窓際に立ち、上がったばかりの月の光がつくる影のかたちで、
おのれの武器を検分した。
「さすがに一晩では無理だろうが……ぎりぎりだな」
 覚悟に時間が必要だったが、自信はある。
とろけさせ、虜にする――初めてではない。馴れてもいないが。
 男娼さながらのいでたちで彼は小さな瓶を手に取り、中身を口に含んだ。
強い酒と一緒に漬け込まれていたものが喉を灼く。闘いが始まる。
 彼は自室を出ると、人の通らぬ廊下を選んで町長の監禁場所に向かった。
そろそろ食事を与えられ、一旦拘束を解かれている時分である。
部屋の前の当番兵に、変わりはないか、と訊ねると、
まだ十代らしい小柄な少年兵はひどく驚いて、
いつもと様子の違う尋問担当者を見上げた。
「はい、あの、異状ありません!」
「ご苦労。……しばらく誰も入れないでくれ。声や音が聞こえても他言無用で頼む」
「あ、はい、了解であります!でも、あのっ」
 好奇心を刺激された様子の当番兵をひと睨みして黙らせると、彼は素早く入室した。
灯りはないが、月が出ているので暗くはない。
窓は開いているが部屋は三階で、庭には常に見張りの兵がいる。なのに。
 つい先刻まで元気で強情で憎らしかったジブルの町長は、
背中から血を流して倒れていた。
刃物でひと突き、致命傷、凶器は持ち去られ、傍には手つかずの食事。
――手慣れた者の仕事の後であることは、一目瞭然だった。
先を越された。失敗したのだ。
「畜生」
 死者を揺さぶりたい衝動をこらえて彼は呻いた。
「初めて……一人で、まともな任務だったのに!
なんだよ、畜生、めちゃくちゃじゃないか……
せっかく細心の注意を払って、やっと決心して、ここまで来たのに……ッ!」
 八つ当たり気味に吐き棄てて、必死に殺人者の痕跡をさがす。
食事係をいつわって入り込んだのは間違いない。
誰の指示で?地下通路の出入り口の発覚を恐れたアシアン国が口封じをしたのか?
スタルニクス側には、この男を殺す理由はない。
少なくとも、必要な情報を引き出すまでは死なれると困る相手だ。
自分にとっては。しかしこの大胆すぎる手口。これはまるで――
「!」
 窓からの月光に不吉な色が混ざり込んだことに気付き、彼ははっと顔を上げる。
炎と煙。やや遅れて争う物音。
「敵襲!?」
 燃え上がっているのは町の外周部ではなく、
中央寄りの、有力者たちの私邸の固まる一角だった。
地下通路出入り口の候補に挙がっており、当然見張りがいた筈だが、
拠点奪回を目指す決死の突入隊の前では無力だったろう。
 だが、まだ敗北が決まった訳ではない。
戦い、守り通せば、ジブルを失わずに済み、任務失敗の疵も小さく済むかもしれない。
 部屋を飛び出そうとする彼の目の前で、唐突に扉が開いた。
そこにいたのは当番の少年兵と同じような
革の肩当てに帽子を着けた長身の若者だったが、かすかに血の臭いがした。
表情のない顔を見上げて、薄絹一枚の若き諜報局員が息を呑んだのは、
相手の完璧すぎる美貌のせいではなかった。
「どうして。……アーク」
「時間切れだ、リゲル」
 互いの名はごくかすかに、二人は囁きあった。
「アシアンの奴らが侵入してきた場合、すみやかに、
かつなるべく多数の町の有力者を葬るのが、今回の俺の任務」
「じゃあ町長も……」
「楽な仕事だった」
 アークと呼ばれた暗殺者は、床でこと切れている男の死体に目を遣った。
「おまえの尋問がうまくいって、敵襲の前に通路が発見されることを祈ってたんだが、な」
 あらわな腕を組んで唇を噛んでいるリゲルに向かって、アークは肩をすくめてみせた。
逞しいという表現は似合わないが、同年代のリゲルに較べると、
ひと回りは大きい印象を与える体格である。
「残念だ。行こう、リゲル」
「行くって何処へ」
 自分が失敗した時の尻拭い役として派遣されたことをほのめかす同僚に、
リゲルは反抗的な目を向ける。
「まだジブルは奪われた訳じゃない。戦って撃退して、
二度と使えないよう通路を塞げば、結果としては同じ筈」
「町は焼け、双方に死者が出る。損害としては充分だ」
「でも」
 この町で出会った人々の顔が脳裏をよぎった。
町長は敵方の人間で殺されても仕方ないと思うが、
隊長や形ばかりではあるが自分が配属された部隊の同僚、
すっかり顔馴染みになったこの部屋の番兵たち、
親しみを抱いた者もいれば、立腹させられたこともあるが、
この危険な占領地での任務を誇りに思い、全力を尽くしていたことに疑いの余地はない。
優秀な暗殺者であるアークは、脱出の為の経路をしっかりと確保している筈だが、
それに身を委ねてしまうことは、今必死に戦っている愛国の兵士たちを、
何百人と見捨てることになる。新たな罪を背負う恐怖に、リゲルは震えた。
「おまえが行ってどうなる」
 そんなリゲルの気持ちを知ってか知らずか、アークは冷淡だった。
「あれを飲んだのだろう?正気の時ならまだしも、こんな身体で」
 不意にアークは指の長い繊細な手を伸ばし、薄絹ごとリゲルの肩を掴んだ。
それだけで電撃のようなものが全身を突き抜け、思わずリゲルはしゃがみ込む。
身体が熱く、敏感になっている。下半身の反応を悟られたくなかったが、相手が悪かった。
「こんなジジイ相手に、おまえがそこまでする必要はなかったんだよ、リゲル」
 背中から大きめの上着が着せかけられるのを、リゲルは感じた。
それが何かの鍵だったかのように、悔し涙があふれる。
アークの手が、何度か背中をさすった。
「こんな町、滅びたって構わない。
そりゃあ、うまく占領出来てりゃ便利だったかもしれないが、
おまえが汚されなきゃ守れないような拠点なら、俺はいらない」
「……でも、俺の初めての単独任務だったんだ」
 上着を引き寄せながらリゲルは力なく首を振った。
「なるべく殺さずに情報を手に入れろって言われて、ほんとは嬉しかった。
アークは殺すことが仕事だから解らないかもしれないけど、
この任務、諜報局らしくなくて――だからどうしても、やり遂げたかったんだ……!」
「……リゲルは優しいな」
 アークは顔を歪めて呟いた。
「昔から、ずっとそうだ。だから俺は心配で――心を乱される」
「アーク」
 完璧な造形の唇が下りてくるのを、リゲルは戦慄とともに見つめた。
今はそんな時ではないのに。溺れる。
「んぅ……ッ」
 舌を絡ませながら、アークは相手のぐったりとした細い身体を抱き上げた。
媚薬が熱っぽくリゲルの淡緑色の瞳を潤ませている。
艶っぽさよりも痛々しさがまさって、アークは黄褐色の目を伏せた。
「ごめん、リゲル。……おやすみ」
 首筋に添えた手に少し力を加えると、リゲルは声もなく崩れ落ちた。
殺さずに意識を失わせる方法なら、百通りは心得ている。
それが彼を救う直接の方法でないことを残念に思いながら、
アークはリゲルの身体を抱え直した。
先刻自分が殺した男の死体をまたいで窓辺に寄る。
戦火は、早くも眼前にまで迫ってきていた。
 が、それはもう、諜報局の暗殺者には関心のない世界の出来事だった。

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